大漁日和

花蓮で自然を愛する人生のパートナーに出会う

同じ台湾大学を卒業し、花蓮の大学院に通っていた游さんと小珊さん。学校内で会うことはなかったが、公益団体の「荒野保護協会」で知り合うことになる。宜蘭・礁溪で生まれ育ち、生まれながら自然が好きな游さんは、大学でも獣医学を専攻した。都会の大病院で獣医になるよりは、大自然の中で動物たちと触れ合うことが好きだった彼は、大学院から進路を変え、花蓮・石梯坪で暮らしながら、来る日も来る日も港から出航する船に乗ってクジラの研究に向かった。それと同時に荒野保護協会にも加入し、そこで台北出身の小珊さんと知り合った。

「知り合ったばかりの頃は、どんな物事も様々な観点から見ることができて、より良い解決策を見つけられる彼のことを尊敬していたんです。」小珊さんが感じた游さんの第一印象は、独特の視点を持っているということだった。そして笑いながら、自分はきちんと人生計画を立てていなかったのだと話す。専攻は日本語だったけれど、積極的に新しい物事や変化を好む典型的な都会の女性とは違い、内心は自然への憧れがあったのだとか。「いつもぼんやりとした光が、私をある方向へ導いていってくれるんです。」彼女がどんな環境にも適応できるからこそ、漂う波が岸につき、遥か遠くの船が方向を見失わずに居られるのだろう。

從レストランから一泊二食付きの宿まで舵を取る料理魂

「初めて船の上で獲れたての魚を食べた時の美味しさといったらなかったよ！」小さい頃から食べることが好きで、母の後ろをついて台所に行くのが好きだったという游さん。花蓮で暮らしている間もよく漁業船に同乗させてもらい、広い海で魚を捕まえることや、火を通さずに魚を食べる方法を学んだ。そして縁があって花蓮の港でレストランを開くことになり、自分で食材を模索するだけでなく、料理人である先住民の友達からも教えを受けた。現在の大漁日和でも、游さんは港から仕入れる魚について紹介する。目の奥は今も変わらず輝いていて、どんなに探検しても永遠に終わりの見えない宇宙のようだ。「料理は毎回宝くじみたいなもので、嬉しい驚きに出会えることも多いんだ。」

「花蓮は僕に新しい学びをくれるけれど、心はいつも故郷の宜蘭にあった。」花蓮のレストランは評判を集めていたが、いつの日か慣れ親しんだ故郷、宜蘭に帰ろうと考えていた游さん。先見の明があった游さんは、当時どの宿も宜蘭の新鮮な海産物や温泉に目をつけていないことに気付く。妻である小珊さんのサポートもあり、そこで真っ先に一泊二食付き宿の計画を推し進め、一件目の宿「大漁部屋」をオープンさせたのだ。それは大きな評判を呼び、予約の取れない美食の宿の一つとなった。「お客さんに美味しいものを食べてもらって、ゆっくり過ごしてもらえたら、歓迎されない理由はないさ！」游さんは、当時は成功する自信があったと得意げに話す。「私たちの願いは、お客さんが宜蘭に遊びに来て、この土地の魚を食べて、台湾の魚はこんなに美味しいんだって気付いてもらうことなんです。」游さんが料理の帆を揚げると、小珊さんは場を和ませて前へ進むオールを漕ぐ。そして遠い太平洋の海から温泉のある2人の家へと戻り、錨を下ろしたのだ。

料理と暮らしへの情熱

「1つのことに本気で取り組む時は、それぞれのステージで挑戦があるけれど、その分達成できた時の喜びも大きいよ。」2号店である「大漁日和」のオープンとともに、より多くの若者が仲間に加わり、游さんと小珊さんは以前よりも自由に時間を使えるようになった。自分の暮らしのリズムにも気を配れるようになり、それゆえに長年経営していても、開店当初の情熱を失わずにいられるのだという。これまで8〜9年経営を続けてきて、疲れ果てた旅人と出会うこともあった。でもここでゆっくり体を休めて、リフレッシュした様子で帰るのを目にしたときに、最も達成感を感じるのだとか。

夫婦でもあり、仕事仲間でもあると、意見の食い違いや喧嘩が起きないかと聞くと、小珊さんは、「もちろんありますよ！でも彼が美味しい夜食を作ってくれれば、私の怒りは治まるんです」と言う。游さんも笑いながら、将来は「妻に作る100の特製夜食レシピ」を出版できそうだと話す。奥さんの怒りを鎮めるだけでなく、結婚する前から美味しい魚で小珊さんの両親の心を掴んでいた游さん。話を聞いていると、可笑しくもあり、羨ましくもある。

美しい太平洋の海を堪能しつつ、料理や日曜大工についての游さんの話を聞いていると、小珊さんも笑いながら話に合いの手を入れる。2人からは、自然に対する謙虚さと料理への情熱、そして日常生活からインスピレーションを得て、それをまた暮らしへと還元していく美食に対する理想が感じられた。幸せとは、一隻の船。2人が同じ方向を向いてさえいれば、人生の荒波を恐れずに、2人の家がある温かな入り江に戻って来られるのだ。