内気でぎこちない朝食の恋
まるで学園ものの恋愛小説みたいだ。Shingさんと洪仔さんは、同じ研究室で生物医学を学ぶ大学院生だった。ある日、「ついでに朝ごはん買ってきて」とShingさんは何気なくお願いしただけだったのに、真面目すぎる洪仔さんにとってそれは、「ついで」では済まなかったのだ!リストアップから始まり、Shingさんのお気に入りを聞き出し、果ては彼女の友達の世話まで焼くようになり、朝食係の座を得た。だんだんと信頼と好感も得るようになり、ついに彼氏の座をつかんだ。
しかし、研究室で芽生えた恋に、洪仔さんは多くの苦渋を味わう。人目が気になるShingさんは、研究室でいつもぎこちなかった。開けっ広げにしたくないオフィスラブみたいなものだ。だからつき合い始めの半年は、1人が正門から、もう1人が裏門から出て、学校を離れてからようやく洪仔さんのバイクに乗るといった具合。それは仲間から、「みんなとっくに気付いてる!」と面と向かって言われるまで続いた。ようやく普通に振る舞うようになったShingさん。2人が校内で手をつなぐには、長い歳月を費やしたそうだ。
武芸十八般を身に着ける
卒業後、Shingさんは「規定」の道を歩まなかった。「食べて、飲んで、遊んで…そんな楽しい仕事ばかりしたの!」と自嘲する。まずはお姉さんとパン屋を始めた。極上の食材にこだわり価格は高め。結局は店をたたむしかなかった。次は友達と一緒にパーティーやウェディングの企画を。その関係から後に洋食方面へと進み、チェーン展開する著名なレストランで見習いとして、さらには高級フレンチレストランで修行をし、理論と実務を兼ね備えた西洋料理の基礎を固めた。その後、台湾でまだ人気はなかったが、好きが高じてバリスタの短期講座にも通った。Shingさんはいつでも全身全霊を注いで学び、さまざまな特技を身に着けてきたのだ。
留まることを知らない彼女は、宿経営を自らの事業とするべく、後に墾丁へ赴きペンションの管理人となる。そこでの仕事を通じて経営管理を学び、同時に民宿が置かれている現状を体感した。ゴージャスで高級な個人経営の宿は決して少なくはない、と彼女はいう。しかし、彼女が目指すのは、ゲストハウス価格でホステル並みの設備やサービスが受けられるような、ひいてはお手製の西洋料理までも味わえる宿。それこそがシンプルなバックパッカーの宿を選んだ理由であり、「同・居」の経営理念でもある。
その頃、高雄で働いていた洪仔さんにとって、宿経営はまったくの無関係に思えたが、Shingさんが自らのホステルを経営すると決めた時、物件探しに家具選び、その上、なんでも屋さんとして休日はいつも付き合った。「彼はいつも支えてくれるの!」とShingさんは笑う。
補い合って2人で1つ
典型的な乙女座のShingさんは、仕事でもなんでも常に完璧を求める。一方の洪仔さんは「ほど良さ」を目指す。異なる性格の2人が共に経営する中で、時には摩擦することもある。しかしShingさんのずばっとした物言いで衝突を回避し、穏やかな洪仔さんが優しく包み込んで後ろ盾となる。Shingさんはそんなまっすぐな優しさに惹かれ、洪仔さんもまた彼女の粘り強さに引き付けられたそうだ。いつまでたっても仲良しの2人。本当に必要なのは、きっと互いの存在なのだろう。
学生時代の交際が結婚へと実を結んだ秘訣を尋ねると、「だって彼は扱いやすいから」と、冗談っぽくShingさんは笑う。隣に座る洪仔さんは、ただただ照れ笑い。客室の電球が切れていたり、備品を切らしていたり、見つけるたびいつも、Shingさんは洪仔さんの名前を呼ぶだけだ。すると洪仔さんはすぐに現れる。太陽の周りを巡回する惑星がごとく、洪仔さんの目には、燦燦と輝く太陽――Shingさんしか映らないのだ。
リビングにあるフロントに2人で籠っているのがいちばん好きだと言うShingさん。何でもそこは、かつて家族みんなが一緒に粉をこね、料理をした場所だったとか。だからカウンターにいると、「家」にいる気分になるそうだ。「同・居」は、バックパッカーだけの宿ではない。 いつも一緒にいることこそが幸せだというShingさんと洪仔さんの愛にあふれた家でもあるのだ。