大きな気掛かりだった築100年の実家
羅さんはまず家族の歴史から話し始めた。清朝時代、乾隆年の頃に関西一帯に移り住み、南山の麓の土地を開墾し、集落を形成した羅家。100年前、日本時代初期の多くの建築が焼き払われ、当時の羅家の祖先は集落を再建・修復し、同時に羅家の祖先を祀る祠と新たな家を建てた。そして、12年の月日をかけて完工。勉学を重んじる客家族の伝統に従い、元々あった本家の隣に建てた新しい家こそが、現在の「羅家書院」だ。羅家の弟子たちの私塾としてだけでなく、家族内で知識のある者が読み書きを教えることもあったのだという。そしてかつて分家であった時に羅家の親族が住んでいた家は、羅さんにとって小さい頃から長期休みになると訪れるもう一つの家となっていった。
「昔は夏休みになると毎回帰って来て、従兄弟たちとこの広場で遊んだなあ。」羅さんは笑いながらこう話す。小さい頃に両親とともに台北へ引っ越し、何不自由ない仕事と生活があったとはいえ、父の友人たちが年をとっていくにつれて、彼らだけの力ではこの100年の古い家を管理できなくなっていくということには気付いていた。家族や同世代の仲間も多くは外に仕事があり、誰もがこの古民家を気にかけてはいても、どうすることもできなかった。羅さんもその頃、内心ではずっとこの事を気にかけていたと言う。「今やらなくても、いつか向き合わなくてはいけない時が来る。」そしてこの気掛かりが、彼を関西の実家へと戻らせた。
「準備ができるのを待っていたら、何も始まらない」
「人生にはやるべきことがたくさんある。準備ができるのを待っていたら、何も始まらない。」羅さんの話ぶりはさらりとして聞こえるが、それは彼が特別に仕事ができるからということではない。それは彼が誰よりも一つ一つの事に向き合って、決めたことを確実に行動に移してきたからだ。彼の一世代上の人は、若い世代はこの場所を離れ、台湾の外に出て初めて成功できると考える。しかし彼はそうは思わない。それよりもむしろ、台湾にある数多くの自然や文化、建物こそが、最も大切な財産だと信じている。「自分が何をすべきかさえ分かっていれば、この場所でだって成功できる。」
「羅屋書院」の管理を受け継ぐと、羅さんは空間を保存するだけでなく、この集落も共に発展させていきたいと考えた。そして町の人たちと連絡を取り、「羅屋書院」を地域の劇団の活動場所として貸し出すなど、一歩ずつ地域の活性化を推し進めていった。そして、「関西芸術の町」として、専門的な地域ガイドを育成し、加えて関西散策マップを製作することで、この場所の生活と文化の奥深さをより深く伝えると同時に、積極的に家族と意見を交換し、歴史建築としての「羅屋書院」の保存修理、老朽化した梁や柱の除去といった申請を進めている。また、宿としてだけでなく、この貴重な築100年の客家の古民家を一般向けにも開放することで、関西の集落や古い街並みに残る美しい伝統文化と記憶が、多くの人の心に残ることを願っている。
感じるままに進み、自分の居場所を見つけ出す
「実はこの仕事は、僕がやらなくてはいけないという事ではないんだ。もし良い人がいれば、その人にやってもらったっていい。」「羅屋書院」の管理に集中するために、羅さんは台北での仕事を辞め、近くの小学校で英語を教え、たまに時間ができると台北に戻って家族との時間を過ごす。しかし彼は驕り高ぶることはなく、彼と同じように文化と古蹟を愛してやまない妻のサポートに対する感謝はもちろんのこと、内心では捨て切れない気掛かりがあることも理解している。それでも彼は故郷をより良くしたいと願い、そして何よりも、「羅屋書院」の建築とストーリーがはるか遠くまで伝わっていって欲しいと願う。「羅屋書院」は単なる宿ではない。ここでテントを立てて星を眺めることもできるし、地元の人が話す料理の説明を聞きながら、大人数でテーブルを囲んでご飯を食べることだってできる。」以前は何年も空き家となっていたこの古民家は、今は多くの旅人の話し声や笑い声で溢れている。この場所で毎日新たなストーリーが生まれ、新たな可能性が始まっているのだ。
「誰にでもその人にしかできないことがある。」羅さんは生き生きとした様子で語る。心の声に耳を傾け、自分のやるべきことを見つけられるのは自分自身しかいない。「そうしたら自分の居場所が見つかるはずだよ。」羅さんの落ち着いた眼差しは、まるで夜の闇に輝く光のようで、彷徨っていた気持ちをしっかりと前へ向かせてくれる。羅さんは笑いながら、実は墓地のひっそりした雰囲気が好きなんだと話す。どうしたらいいか分からなくなると、いつも墓地を訪ね、気持ちを落ち着かせてから、ゆっくりと考えを巡らせる。彼は自分のこの変わった行動を冗談混じりにこう話す。「人それぞれ自分のやり方がある。静かに座りながら考えに浸る人もいるだろうし、街歩きをしている時に、自分らしさを取り戻す人だっているかも知れないでしょ?」
夜になり、空気がひんやりとした風に変わる。縁側で星空を見上げながら、意気揚々と語る羅さんの話を聴く時間。それは素晴らしい人生の授業のようで、心は熱い思いで満たされていった。