路地の生活風景
ここは古い家屋で、かつては千冊以上の本が所蔵されていた古い書庫だった。宿の扉を開けるためのパスワードは、二人で過ごす時間を開く暗号のよう。中にいるのはあなたと私の二人だけ。そして、ここは私たちの家となるのだ。靴を脱いで家へ上がる。入り口の側の窓からは光が斜めに差し込み、柔らかな深緑色のソファに降り注いでいた。美しい午後の風景だ。ダイニングテーブルの上からぶら下がるレトロなガラスのランプには細かな絵柄が刻まれており、大正ロマンが感じられる。私は階段のすぐ横にある戸棚から二人分のお皿や箸、お椀などを取り出す。あなたはさっき買ってきたばかりのグルメを盛り付け、温かいお茶を淹れる。口の中に広がる台南独特の甘じょっぱい味。それは心を癒し、いつまでも消えない甘美な思い出として残るだろう。
2階へと続く一段一段の階段。手すりの上の方に見えてくる真っ白のレトロな格子から、二人が共に暮らす姿がかすかに窺える。畳のスペースに置かれた古い木製の戸棚、淡い模様が散りばめられた石床。斜めになった天井板の下にはリネンのベッドがあり、日の光が部屋の中へ自然と伸びてきます。木の窓を開けると感じる、風がふわりと運んでくる暖かい空気。近所に響くパタパタと走る足音。私は本棚から好きな本を一冊取り出して壁に寄りかかり、あなたの肩に頭をもたげる。美しい京都の街角の風景が描かれた本のページを一緒にめくり、夕日が落ちる頃、二人で同じ場所に思いを巡らせるのだ。
台南で出会う京都
実家が台南にあるオーナーのClaireさんは、台北在住だが、お正月になると毎年台南に帰省する。そしてその度に、言葉にできない懐かしさを感じるのだという。ある時、彼女は一人で台南に連休を過ごしに帰省し、街を歩いていたときに、以前は気に留めることのなかった街の魅力に気付く。そしてだんだんと台南の雰囲気に惹かれていき、老後は台南に戻りたいと以前にも増して思うようになったのだとか。そこで理想を実現させるために、イメージに合う古民家を探し、デザイナーと話し合いを重ねて彼女がイメージする未来の家を表現したものが、今の「小房子」だ。
Claireさんは笑いながら、「京都は私の第二の家なの」と語る。旅行が大好きな彼女は、海外へ行く度に記念になるお土産を持ち帰ってくるだけにとどまらず、そんな旅行中の思い出をひそかにこの家に紛れこませている。たとえば、京都の蚤の市やお店で見つけた美しい食器、ベランダにある蝶の模様が彫られたイタリア製の陶器のランプなど。こうした異国のエッセンスを取り入れているのは、「小房子」を様々な要素が溶け込み合い、調和のとれた場所にしたいと願っているからだ。
信義街で味わう「慕紅豆」のお汁粉
おだやかな午後、日の光の通る道をたどりながら信義街をゆっくりと歩く。小さな看板のかかる喫茶店や民家を通り過ぎ、少し先にある曲がり角を曲がると、そこには誰もが知る有名店「慕紅豆」が。薪を使った古くからの製法でお汁粉を作り続ける一店で、お椀の中の汁をちびりちびりと飲むお汁粉は、南国の冬には欠かせない甘味だ。夏にはアイスクリームに、お芋とみつ豆の黄金コンビを合わせたデザートがいただける。
日の光は猫のように、ゴロゴロと喉を鳴らしながら顔にじゃれつき、懐に入り込んで甘えるようにハグを求める。私はあなたとの願いをこの場所に残し、そっと、静かに明かりを灯す。ここは「小房子」。台南の路地に息づく小さな日常が、ひっそりと暖かく光り続けている。