心から求める気持ちが夢への道を作る
小さい頃から台北で生活していた小佩さんだが、中学校時代は反抗期が原因で、台湾中部の彰化県にある叔父さんの家に住んでいたことがあったという。新しい体験ばかりの田舎での生活は、意外にも彼女の中で忘れられない思い出となっている。都会の喧騒から離れ、シンプルな生活の中で飾らずにいることの素晴らしさを感じたのだ。台北に戻った後は、憧れの従兄弟が通っていたという理由で、彼の後を追って厳しい機械デザイン科へ進んだ。「あの時はまだ若かったから、年がかなり離れていて、自分よりもずっと経験豊富な従兄弟を見ていると、彼と同じ道を歩んでいけば間違いないと思ったんだ」と彼女は笑う。
その後、教員養成で有名な師範大学でインテリアデザインを学んだ小佩さんは、その課程がデザイナーとしての道に通ずるものではないと気づく。他の学校や学科の友達が卒業制作で忙しいときに、自分は紙とペンでの理論のお勉強を漠然と続けることしかできず、苦しいだけの毎日に一度は休学も頭をよぎった。将来の方向性にこそ迷いを感じてはいたが、自分に合わない道がどんなものなのか、少なくともはっきりと分かっていた。そんな状況の中、友達の支えもあり、何度も壁にぶつかりながらもなんとか卒業を迎えた。
インテリアデザインの会社に就職してからは、住宅のモデルルームや別荘のデザイン、中古住宅のリフォームに至るまで、様々なタイプの案件を担当した。来る日も来る日も新たな物事に挑戦し、学ぶことも多い日々だったが、前に進むほどに、心の奥深くでは物足りなさを感じていった。そしてそんな状況を変えたいという気持ちがピークに達し、台湾を離れて異国の大学院で学ぶことにした。心のままに新たな道を歩んでいくことに決めたのだ。
イタリアでの理想の生活を、故郷・台北で活かす
「イタリアでの生活を思い返すと、今でも自然と笑顔になってしまいます」社会人からまた学生に戻った身として、一年半に渡るイタリアでの大学院生活は、彼女の人生の中できらきらと輝く夢のような時間だった。そして、色あせた過去をこれからの未来に向けてすべて白紙に戻し、新たな世界と理想を描き始めた。華やかな異国での生活を離れた後、全く新しい自分となり、再び台北に戻ってきた小佩さん。建築事務所で働いたのはほんの短い期間だったが、自分が本当にやりたいことに気づくきっかけになった。ビジネスのための空間を作るのではなく、生活のための空間を作り上げることだったのだ。
まずは、自分が好きだと思う仕事に携わることから始めた。「多麽Café(ドゥオーモカフェ)」はまさにこの時に誕生したものだった。カフェについて話す小佩さんの目はきらきらと輝く。「多麽(ドゥオーモ)はイタリアにある教会です。イタリアではドゥオーモは生活の中心で、都市になくてはならないもの。『多麽Café』もそんな場所であってほしいと思っています」「多麽Café」が人と人をつなげる場所であるなら、「門草行旅」は人と暮らしの間に横たわる想像への扉を開くものだ。
卒業を間近に控えていた頃、突然彼女の頭に浮かんだ考えがある。「いつか宿を経営する!」あの時、深く考えずに口に出したことが、心の奥深くで夢の種として眠り続け、何年も後になって実現するとは、全く思ってもみなかったという。「多麽Café」の成功の波に乗り、小佩さんは2カ月間、理想に合う古民家を懸命に探し続け、もう諦めようかというところで、台北の歴史と文化を育んだ古都、迪化街で4階建てのそれに出会った。入口の扉を開けたその瞬間、かつての台北に流れていた時間の扉、そして切に願った理想の暮らしへの扉をも同時に押し開けたのだった。
大切な人のサポートと諦めない強さで、夢への枝葉を伸ばす
4カ月弱に渡って建物のリフォームや空間デザインを行った小佩さん。民宿内に広がる香りや階段に置く植物、壁に飾る押し花など、空間の中の一つ一つをすべて自分の手でデザインし、選んでいった。その間、どんなに泣いたり壁にぶつかっても、決して夢を諦めなかった。「よく向かいの公園に行って一人で泣いていたんです。もし彼がいなかったら、乗り越えられなかったかもしれません」これまで辛かったことについて触れるたびに、彼女は支えてくれたパートナーへの感謝を口にする。「みんな、私は勇気があると言うけれど、私は彼の方がずっと勇気があると思います。私のことを信じて、無条件に私のやりたいことをサポートしてくれたから。」
「門草行旅」は小佩さんの理想の暮らしを実現したものだ。その中に残る余白には、理想の暮らしへの想像が広がっている。そんな白いキャンバスで、自由に夢を描き、その夢の中で羽ばたく旅人たち。日々の暮らしとは、この宿のように、古いものと新しいものが混じり合う中で時を刻み、自然や文化の移り変わりの中で装いを変えていくものだ。小佩さんは今も変わらず夢を追い求めながら暮らし、暮らしの中で夢を追い求め続けている。「門草行旅」で愛する人のサポートと夢を諦めない強さを胸に、一つ一つの出会いを大切にしながら、物語を一つ一つやさしく受け入れる。そして、ゆっくりと穏やかに、夢への枝葉を伸ばしていくのだ。