暁民宿

茶褐色の温かな家

ドアを開けると、おとぎ話の中にある木の家のようだった。部屋の隅に置かれたク リスマスツリーが輝いている。白レンガの壁と褐色の木製家具に映し出される光は とりわけ温かい。部屋に漂うほのかな香り。幾人かの旅人は大きな木のテーブルを 囲んで談笑し、小さな鉢植えの緑は爽やかな空気を満たしていた。からし色のソフ ァでは小朱さん・暁青さん夫妻のかわいい赤ちゃんがすやすやと眠っている。白い ガーゼのカーテンが室内を柔らかく包み込む。誰もが幸せの世界に浸っているかの ようだ。簡素な中にあるこの美しい世界に。

室内設計を担当した女将の暁青さんは、この民宿の設計図に理想の家を描いた。ど の旅人も木の温もりあふれる空間でくつろげることを願って。朗らかなでユーモラ スな彼女は、自ら描いた絵はがきを丁寧に紹介し、本棚に並んだたくさんのマンガ 本を勧めてくれた。黒板に描かれた色とりどりの三羽のかわいいウサギ。それはこ こで静かに旅人の訪れを待つこの一家のようだった。

寝泊まりは温かく美しいシンプルな空間

7つの部屋は1階から4階にある。フローリングの温もりが続く広々とした部屋は、シ ンプルなインテリアですっきりとした美しさを造り出していた。部屋の片隅にさり げなく置かれた小物は旅人へのサプライズ。個性的なライトが灯り、小さな鉢植え が元気をくれる。ヘッドボードの上に飾られた真っ白な世界地図が、失くした想像 力に夢の中で気付かせてくれることだろう。

かわいらしい猫の尻尾のハンガーフックに上着を掛けたら、独り占めした空間の悦びを噛みしめよう。上層階の客室の大きな窓から見える鯉魚山の稜線。疲れたらソファに沈んで旅の悦に浸るのもいい。白いタイル張りの天井の高い浴室で、快適なバスタイムを過ごし、憂鬱な想いを洗い流す。それから柔らかな白いベッドに飛び込み抱かれる。簡潔で温かな美しさはここにあるのだ。

木製クリップで留められた美しき思い出

早朝、温かな陽光がカーテン越しに静かに優しく朝の訪れを告げる。布団をめくる と、 ぬくぬくと笑顔も照らした。伸びをして起き上がる。歯を磨いて、顔を洗い、お気 に入りのTシャツに着替えよう。美しい旅はこれらのありふれた日常に気力と活力を 満たしてくれるのだ。

階下へ下りる。キッチンで熱いコーヒーを淹れて、オーナー自慢の木製バーカウン ターへ。幸せの味を啜りながら、いそいそと感謝の言葉を書き記した。かわいらし いガチャガチャもある。コインを入れて回すと、クラフト紙が貼られたマスキング テープが飛び出してきた。次の再訪を願う想いを木製クリップで留める。オーナー から朝食券を受け取って街に出た。のんびりとお目当ての朝食屋へ向かう。夜明け 後の、満ち足りた輝かしい一日が始まろうとしていた。

家族のよりよい暮らしのために、小朱さんは「暁民宿」を開いた。温かく美しい小 さなこの住処は、隅々まで情熱と真心であふれていた。暖色の木の香りに包まれた 息もぴったりな夫妻。ここは2人の理想の家庭像で満たされていた。