山と海に囲まれて、自分と時間との対話を
どこまでも続く海と、連なる山々。都市の喧騒を離れ、海浜公路で車を走らせる。 窓の外に映るのは一面に広がる紺碧の海。どれだけの車や風が過ぎ去り、そしてど れだけの景色が海鳥たちのように遠くに飛び立っていっただろうか。民宿「辺境牧 海」は、台東の沿岸地の森の中にある。山から海を望むように立っているその姿は 、時の流れを忘れさせてくれる。厚くて高いコンクリートの壁が漂わせる野性的な 雰囲気の中に、木材が柔らかさを添えている。壁と壁が連なり、その間で交錯する フロアや客室。まるで優しい両腕で太平洋を包んでいるかのようだ。
建物の前に広がる草原を抜けて、室内へ。ヨーロッパスタイルの照明が吊り下げら れていて、その下には木製の長テーブルが2つ斜めに置かれている。書棚に並べられ ているのはオーナー、頼頼さんと盧盧さんが長年集めたコレクションたちだ。午後 の光が網戸の隙間から差し込み、床に光の点を作っている。両隣の垂直な壁は2階ま で続いていて、そのうち片方の窓からは豊かな緑を望むことができる。左側の扉の そばには小さな食堂が。旅人たちが自由に使える共用キッチンもある。日の光でコ ーヒーを一杯淹れたら、レトロな鍵でスペインの棚に隠された遠い過去の記憶を開 けてみよう。階段で上の階に歩を進めてみるのもいいかもしれない。まるで時間と 対話するかのように、壁に飾られた地元の芸術家、Kelly Chouさんの絵画を眺める 。日の光と影が交錯する空間を歩いていると、まるで天と地をつなぐ通路にいるか のような錯覚を覚える。そして、山と海に囲まれた景色の広大さも感じられるだろ う。
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4つの客室、レトロでロマンチックな生活の美学
複雑に交差したフロアの間には、4つの客室がある。どの客室にもヨーロッパ風のレ トロな雰囲気が漂い、そこからは生活の美学が感じられる。1人でも4人でも、海の そばならではのロマンチックさが味わえるだろう。一人部屋の中にある階段の壁は 透き通ったティファニーブルーで色塗られており、白い雲が描かれている。裸足で 歩くと床の温度が感じられる。ベッドのそばには白いカーペットとフランス製の大 きな柔らかいクッションが置かれている。小さなベランダからは自分だけの海を眺 めよう。次の部屋は、優雅な赤が醸し出すクラシックな雰囲気。4つの柱に囲まれた ダブルベッドは恋人たちが夜を過ごす場所だ。広々とした浴室には、ドイツのメー カー「ビレロイ&ボッホ」の卵型の浴槽が。海の息吹を感じながら、ゆっくりお湯に つかる。
深い青が大きなダブルベッドを覆う3つ目の部屋。ロフトは温かな黄色で塗られてい て、木の落ち着きを感じさせる。日の光をたっぷり浴びたふわふわのソファで海の 声に耳を澄ませよう。外へ続く階段を上っていく。屋上に着いたとたん、潮風がた っぷりと吹きつける。目の前には、紅に染まった海と空が広がっているだろう。4つ めの部屋は、優しい空の青に包まれている。1階の大きな木の扉を押し開けて中へ。 専用のキッチンに置かれたイタリア・スメッグ社の青い冷蔵庫は、そばに置かれた レトロな皮のソファとよくマッチしている。静かに垂れ下がっている2重のカーテン は、テーブルのそばに優雅さを添える。鉄のらせん階段を上っていくと、まるで秘 密の宝箱のような寝室が。階段はさらにその上の、夏の熱い海を望める屋上につな がっている。
午後は、元気な牧羊犬たちと誰もいない砂浜へ出かけよう。彼女たちはどこからか たどり着いた木の枝をくわえて遊ぼうよとせがむだろう。潮の満ち引きが変わると 同時に、遠くの方で漁り火が灯りはじめた。夜が深まったら、仲間たちとキッチン でおいしい夕食を楽しもう。持参したワインを開け、心地よい夜を感じる。しんと 静まった暗闇に、銀色の光がぼうっと浮かぶ。波の音と一緒に、夜空に散らばる星 たちの語り合う声が聞こえるかもしれない。オレンジの光が灯るロビーの片隅のソ ファに腰かけ、ロラン・バルトの本を読みふけるのもいい。真っ白な船のようなベ ッドに横たわって、さざ波の声を聴きながら、眠りにつくのもいいだろう。月明か りに照らされた太平洋へ航海に出る夢が見られるだろう。
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日の光と犬たちに包まれた朝食の風景
夢から覚めて、木の扉を開ける。草原を抜けて、その向こうに広がる砂浜へ。互い に肩を寄せ合いながら、ゆっくりと昇る朝日を眺めよう。少し朝寝坊をするのも良 い。部屋に降り注ぐ太陽の光で目が覚めてから表に出ると、牧羊犬たちが元気に駆 け寄ってくる。彼女たちの頭をなでながら、一緒に2階の食堂へ。日の光に照らされ た明るいテーブルの周りを犬たちが機嫌よく囲む。
海に近い場所にある木製のテーブルには、温かな日常の風景が並ぶ。熱々のカボチ ャと爽やかな香りが広がる冷麺。もしくはコーヒーに、パンとジャムかもしれない 。温かな日差しと海に包まれて、互いに笑顔を交わす。
海を望むように佇む建物。とても静かで、まるで時が止まったままかのような景色 がそこにはある。聞こえてくる海の声は、細くて、温かくて、そして自由だ。海の そばに立つ巨大な建物を前に、広大な天と地を感じながら、どこかに忘れ去ってし まった自分の心を取り戻そう。
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