尋路 苗栗綠波浪

光の降り注ぐ白い森

車のドアを開けると、山の香りが疲れた心を癒す。宿に着くとお世話係の方があたたかく出迎えてくれた。そして、履き心地の良いスリッパを用意して、香りが体に染み渡る花茶をダイニングで入れてくれる。明るくシンプルな室内はまるで北欧の白銀の森のよう。木々やトナカイのランプが白を基調にした清潔感のある空間によく映える。壁一面の大きな窓へと目と移すと、柔らかな日の光がクスノキの森に降り注ぐ光景が目に入った。青々とした緑の広がる景色を見つめていると、日々の悩みは温かい花茶とともに薄れていく。木製のダイニングテーブルの上には、ガラス瓶に活けられた小さな白い花。お世話係の方は微笑みながら、その花の名を教えてくれた。「ベツレヘムの星」。イエスが生まれる時に空に輝いたとされる星で、一瞬の美しさを表すのだという。

木々の枝の間を通り抜けた先にあるのは、読書の森だ。大きな木からは光る果実が垂れ下がり、真っ白な書斎をあたたかく照らす。詩集を一冊選んで、ゆったり木の幹に寄りかかると、落ちていく太陽の光と木の葉が本のページの上にきらきらと影を落とす。耳元で流れるやさしい森の音を聞きながら、この場所と美しい文字の中で時を過ごしたい。

天使の愛する美しい森、トナカイが暮らす暖かな大地

森のドアの向こうには七つの部屋があり、トナカイたちはそれぞれの部屋にまつわる森の童話をあなたに語りかける。「時光的純釀（醸造された時間）」では、赤ワインを嗜み、森の中で熟成されたほろ苦い味わいの時間を楽しみながら、家族や友人と季節ごとに移り変わる星空の下、積もる話に花を咲かせる。夢の続きを語る「森林的飛翔翅膀（森の飛ぶ翼）」では、トナカイが文字と林の間を飛び回りながら一羽の幸せの青い鳥となる。木々の「永恆的溫度（永遠の温もり）」を感じながら、あたたかな森の中にどっぷりと浸かり、大自然の恵みの中で生き続ける。そして「動物們的願望（動物たちの願い）」に耳を傾け、万物の魂たちとともに森の中でピクニックを開き、落ち着いた後は、「善意的耕耘者（善意の農夫）」となって、すっきりとしたコーヒーの香りに導かれながら山の農家の公平について探る。緑の植物の清々しい空気の中では「天使般的純淨（天使の運ぶ純粋）」を感じ、人と草木との間のバランスを探しながら、天使が運んできたものとして、心の澄んだ森をやさしく守るのだ。

楽器の音が「森境的樂曲（森の入り口の曲）」へとあなたを導き、可愛らしい子鹿が鍵を回して森への扉を開く。シーリングスタンプが押された手紙をそっと開けると、一字一句は飛び跳ねる精霊のよう。ドアを開けると、すぐ目の前には大きな窓があり、屋外のロマンチックな映画館にいるような気分になる。上映するのは森や風、光と陰に関する映画。シンプルで素朴な部屋には至る所に心づかいが隠れている。ベッドの上には本が置かれ、あなたの心と対話する。枕元には女性向けに準備されたフレグランス乳液が。コートを脱ぎ、木のハンガーラックにさっとかけたら、リラックスする音楽を聴きつつ、本を手に取って、ベッドにごろりと寝転ぶ。本の世界に浸りつつ、時々顔を上げて落ちていく夕日の残照を眺めるうちに、空はだんだんと暗くなっていき、まるで大空が大地に口付けるようにやってくる静寂の時。あたりはひっそりとし、木がさらさらと囁く音だけが聞こえてくる。

森に子守唄が響き渡る夜。静かな心の内をさっとメモに書き留め、タブノキの森におやすみを告げると、きらきらと澄んだ星の降る夜に眠りについた。

海の水のように豊かな緑の中で安らぐ心

早朝、小枝の上で小鳥がチュンチュンと歌い出す。暖かな太陽の光が窓から降り注いで、あなたを優しく揺り起こす。朝食の香りが裏庭の森の端まで漂っている。初冬の朝の光の下、木のテーブルの上にはお世話係の方が心を込めて作ってくれた豪華な朝食が並ぶ。ローゼルの花を使った窯焼きパン、オートミール入りの太陽のサラダ、ローズマリーのポテトグラタン、森のキノコの茶碗蒸し、ツナトマトクロワッサン、天使のパンプキンポタージュ・・・。そのどれもが素材の味を活かしたちょうど良い味付けだ。草木の精霊たちと共に、早朝のパーティを楽しもう。最後に一口、リンゴの甘さを味わったら、微笑みながら迎える自然の中での美しい一日の始まりだ。

目を閉じ、マイナスイオンたっぷりの爽やかな空気を吸い込むと、涼しい山風が太陽の下で輝く髪をそっとなで、心は森の奥深くへとふわふわと舞っていく。あれ、なんだか一頭のトナカイの影を、林の中でちらりと見たような。ここでは自由に想像をめぐらすことができる。人と森との距離はこんなにも近かったのだと、初めて気が付いた。

涼しい風が葉をサラサラとなびかせ、どこまでも続く山並みはまるで緑色に染まる海のよう。幾重にも折り重なり、濃淡の異なる緑は潮の流れが波を運んでくる様子と似ている。喧騒から離れ、林とダンスをするとき、旅人の歩みはゆっくりとテンポを落とす。そしてゆっくり、またゆっくりと、心の中に生きる白い鹿の足跡を探しながら、自然のささやきと心の声に耳を傾けるのだ。