海辺のトーチカに一晩駐屯しよう
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海辺のトーチカに一晩駐屯しよう
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スペースと設備
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宿の風景をのぞいてみよう
軍に仕える気持ちとはどんなものだろうか。そんなことを考えつつ、かつて国共内戦の最前線だった離島・馬祖へ。飛行機に揺られながら、地図に記された55のトーチカを1つずつ数える。民宿「55拠点」は、大陸にほど近い南竿島の西南に位置する津沙湾を守っていた軍事施設を改装して作られた。今夜わたしたちは、かつて軍人たちが命を張ったこの場所で、夜空の下で光り輝く「青の光」と黄金に煌めく朝日を守るのだ。
海を望むのんびりとした生活
くねくねと蛇行した南竿公路に沿って歩く。風に吹かれて揺れるススキが海から潮の匂いを運んできた。55拠点に入ると、大きく「忠誠堡」と刻印された迷彩柄の柱に出迎えられる。大きな石の上にはかつてここが戦いの場だったことを知らしめるスローガンが埋め込まれていた。階段を降りると、海に向かって突き出したテラスが現れる。民宿の飼い犬「憂憂」(ヨウヨウ)と「楽楽」(ララ)がしっぽを振りながら中へと招き入れてくれた。
靴を脱ぎ、心地よいロビーに上がる。バーカウンターには、ドリンクやビールがお行儀よく並べられている。通路の奥にある交流スペースでは、各地から来た旅人たちが自由に過ごしている。腹ごしらえしようとキッチンで何かを作る人や、テーブルゲームに熱中している人…、あちこちから楽し気な声が響いてくる。窓際の席に腰かけ、外に広がる海とのどかな村を眺めながらペンを取った。ここでは軍人たちが基地でつける日誌「莒光日記」に旅人たちが思い思いに言葉を残していく。目の前に広がる海の景色をつづりながら、いっそのこと悩みも全てここに置いて行ってしまおうかという思いが一瞬頭をよぎった。
戦争から50年後、蘇った海辺のトーチカ
「どの軍事施設も地形に合わせて作られている、唯一無二なんだ」。初めてこのトーチカを目にした時の心情を口にした時、オーナーの阿亜さんの目には興奮の色が浮かんだ。この島で育った阿亜さんは台湾や世界各地を旅して回った後、故郷に戻ることを決めた。ワーキングホリデーの経験や内装などの特技を持つ阿亜さんは、歴史研究を重ね、時代に忘れ去られたトーチカを引き継ぐ権利を手に入れた。戦争から約50年後、およそ1年の歳月をかけてトーチカを現代に蘇らせたのだ。
かつての兵士たちの寝室は、バックパッカーの寝床となった。基地の軍人がそうするように、布団を豆腐型にたたんだり、軍用タオルやスチールカップを部屋に用意したり…これらは全部阿亜さんのちょっとした遊び心だ。中隊長の部屋や弾薬庫は浴室に改装された。窓の外にそそり立つ花崗岩の壁を目にすると、馬祖の歴史風情に少し近づけたような気持ちになる。見張り台だった場所は210度に広がる壮大なパノラマを自分たちだけのものにできるツインルームに生まれ変わった。眼下に広がる海は、夜になれば幻想的にゆらめく「青の光」に包まれる。
満天の星空の下、海に一番近い場所で
阿亜さんに連れられて狭い石段を下りていく。一歩踏み出すごとに、海との距離が縮まっていくのを感じた。地下に掘られた坑道はとっておきの秘密基地だ。岩壁を滴る水滴の音を聞きながら、薄暗いトンネルを進んでいく。すると、目の前には海に面して開けられた大きな穴が現れた。優しくくれない色に染まる夕日を遠くに望みながら、潮風を大きく吸い込む。もう少し遠くまで見たければ、てっぺんの展望台まで登ってみよう。目の前を遮るものは何もなく、眼下にはただただ広い海が広がる。波間には、岩場を囲むように青の光がぼんやりと浮かび上がっている。夜が深まるにつれて光は少しずつ広がっていく。阿亜さんが旅人たちのために準備したとっておきの“星空バー”は青い光に優しく照らされていた。
「馬祖には夜の娯楽が何もないんだ。だからここが人々の交流の場になってほしい」。阿亜さんは55拠点をニュージーランドで出会ったバックパッカーが集まる宿のようにしたいという。そこでは、世界各地から集まった旅人たちがそれぞれの人生や体験について話し、交流を深めるのだという。それと同時に、異なる声が集まる青年たちの活動拠点のような場にもなってほしいと話す。阿亜さんはこれまで、馬祖初のコンサートの開催や様々なテーマの講座の開講などを行ってきた。現地の人々に多様な考え方に触れてもらうことで、馬祖の過去に向き合いながら、現在や未来について共に考えていきたいのだと理想を語る。
「馬祖の人々にはかつて苦しんできた過去がある。だから、僕らに何かできることがあれば、少しでもやっていきたい」。阿亜さんは理想を胸に、馬祖の未来をしっかりと前向きに見据えている。一歩一歩前進んでいけば、道は必ず開け、故郷の未来は広がっていくはずだと信じているからだ。55拠点はどこまでも広がる海と山と共にここを守りながら、旅人たちと共に前進し続けることだろう。