日青工寓

日本を感じるロビーに流れる心地よいリズム

スリッパに履き替える。スピーカーから流れるエレクトル・ポップがこれから始まる旅のリズムを刻んでいた。純白の壁とフローリングの床が温かみを添えている。壁一面の格子状の棚は、バリスタでもあるオーナー丹丹さんのコーヒー用具のほか、ゲストのための様々な日用品――キッチン用具やアイロン、フレグランス、傘などが。これら暮らしの欠片は、ここに飾られたり、使われたりしながら入れ替わってほどよい距離感を保ち、旅と暮らしの間に自然な重なりを織りなしていた。

ロビーの冷蔵庫には馴染みの店から選んできたクラフトビールがあった。緑が映える窓際のソファーに座って、満ち足りた旅の時間を感じながら雑誌をめくったり、部屋の中央にある大きなテーブルで、これまで訪れた旅人が残した文字に想いを重ねて心の赴くままに書き連ねてみたり。ここにはロフト風の空間と日本を感じる空気が流れている。誰もが自由気ままに過ごせる風景が広がっていた。

木の温もりあふれる真っ白な客室

１階から４階にある９つの客室は、１階の４人部屋を除いてどれも２人部屋だ。ほのかな香りが漂う室内に、明るい陽射しが延びている。白と木目調のインテリアは、シンプルでどこか「無印良品」を思わせる温かさがある。ベッドサイドのテーブルや部屋の隅の鉢植えを好みの位置に移動して、自分色の空間に染めるのもいい。

夕方――203号室ならバルコニー脇のベンチで本を読んで。202号室なら広いバルコニーで風に吹かれて。あるいは、どちらの部屋にいても大きな窓を開け放ち、黄金色の薄霧に浮かぶ街並みを眺めたい。のんびりとした台東の景色を遠くの山々が映し出すことだろう。夜更け――大切な人と窓際のスツールに並んで座る。旅の思い出を語り合い、赤ワインの芳醇な香りに酔いしれる。それからベッドにもぐって、深い夢の森をさまようのだ。

ハンドドリップコーヒーとビュッフェ式の朝食で素晴らしき１日の始まりを

翌朝――裸足のまま寝ぼけまなこでダラダラしていると、芳しいコーヒーの香りが漂ってきて一気に目が覚めた。「おはようございます！」丹丹さんはすでにテーブル脇のアイランドキッチンに立ち、コーヒーを淹れる準備をしていた。「シングルオリジンがいいですか？酸味があるのはどうですか？」うなづいて、普段からよくコーヒーを飲んでいる、と伝えた。コーヒーを待っている間、ビュッフェ式の手作り朝食を皿に盛る。冷蔵庫には果物やジャム、各種ハムやチーズなども詰まっていた。牛乳やドイツD＆B社のハーブティーまである。思い思いの趣向を凝らした朝食がいただけるのだ。例えば、夫人の佩紋さんによる季節の手作りジャムを「人×人。REN×REN」のふんわり厚切りトーストに塗って。オーブンでこんがりと焼いたら、庭で摘んだミントをのせて。忘れられない朝食の出来上がりだ。たわいない会話も慈味となって舌の上で溶け出した。１日の活力を注入して、今日という日がまた続いていく

いつでも雲ひとつなく晴れ渡っていたい。それは、陽だまりの中で理想を温めて、ゲストの歩調に合わせて歩みたい、という丹丹さんの民宿への想いでもある。そんな人々を惹き付けるライフスタイルは、のんびりとしたこの地で、若い息吹を吹き込んでリズムとなって、ほどよい活力を与えている。トーストを焼いている時、おしゃべりを楽しむ時、もしくはコーヒーから立ち上る湯気に空っぽの暮らしを投影する時、漂う香りと音とを楽しんで欲しい。 ――今日も快晴だ。ここには変わらない清々しい光景が広がっていた。きっと温かな太陽が、続く旅を見守っていてくれることだろう。